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現代社会を支える/進化させる
リチウムイオン電池の偉業とは?2023.06.01

現代社会を支える/進化させるリチウムイオン電池の偉業とは?

皆さんもきっと耳にしたことがあるはずの「リチウムイオン電池」。その名前の通り、数ある電池の中の一種類ではあるのですが、実は現在の私たちの暮らしや、サステナブルな社会づくりで重要な役割を担う、「今もっとも注目を集める電池」なのです。

まずはおさらい! 電池が電気をつくる仕組み

電池には色々な種類がありますが、基本的に電気を発生させる仕組みそのものは同じです。小学生の頃、理科の授業で習った、電気が発生する仕組みをおさらいしてみましょう。
電池には金属を素材としたプラス電極(正極)とマイナス電極(負極)があり、二つの電極の間は電気を通す物質=電解質で繋がれています。各金属の電極は電解質で溶かされ、イオンと電子に分かれます。この電子が負極から正極に移動することで、電気の流れ=電流が発生し、電気が作られます。これがすべての電池の基本です。
そして、電池はいわゆる乾電池のように一度しか使えない「一次電池」と、何度も充電して使うことができる「二次電池」に分かれます。私たちが普段使っているスマートフォンやノートパソコンなどに組み込まれているのは、この充電が可能な「二次電池」といことになります。

ノーベル賞も! リチウムイオン電池の革新性とは?

ノーベル賞も! リチウムイオン電池の革新性とは?

今回の主役であるリチウムイオン電池。この開発に貢献したエンジニアの吉野昭氏や、物理学者ジョン・グッドイナフ氏、科学者スタンリー・ウィッティンガム氏は、2019年にノーベル化学賞を受賞しています。それほどの大発見であり、社会的な貢献を認められたリチウムイオン電池のすごさとは何なのでしょうか?

電池にリチウムを利用するという技術は、1970年代半ば石油会社の技術者だったウィッティンガム氏によって提案されました。当時のアイデアとしては、正極の材料に二硫化チタンを使用し、負極にリチウムを使うという構造でした。しかし、この組み合わせは、充電や放電の際に電極の金属が溶けたり、癒着してしまい、二次電池としての安定的な動作を確保できませんでした。そのため、使い捨てカメラのフラッシュや釣りの浮き用電池といった、とても限定的な一見電池としての採用に留まってしまいます。
1980年、グッドイナフ氏が正極にコバルト酸リチウムの採用を提案。それに続く形で、翌年、吉野氏がカーボンを負極として組み合わせる方式を発表します。さらに、1983年には、グッドイナフ氏がより安価なコバルト酸リチウムも正極材料として使用できることを証明します。吉野氏が正極と負極のイオンのやりとりの安定性を確保する技術を確立したことで、ついに二次電池としてのリチウムイオン電池の実用化が実現しました。

何といっても、リチウムイオン電気の大きな特徴は、鉛蓄電池やニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池といった従来の電池では難しかった「超小型/軽量化」が可能という点です。
この小型化、軽量化の技術は、社会の発展への貢献は勿論、私たちの生活様式さえ一変させたと言えます。私たちが日常的に使っているスマートフォンや、パソコンの普及もリチウムイオン電池の開発・発展がなければ、現在のような小型化は実現しなかったでしょう。電気自動車も一回の充電での走行距離はもっと短く、実用化までより多くの時間と技術を要したかもしれません。また、ドローンのような、次世代のツールの誕生もなかったかもしれません。今後も、さらに応用が進み、社会の仕組みを変え、支えていくのは間違いないでしょう。なるほど、ノーベル賞受賞も納得ですよね。

リチウムイオン電池、これからの課題とは?

リチウムイオン電池、これからの課題とは?

二次電池であるリチウムイオン電池は、カドミウムや鉛、水銀といった環境規制物質を使用していない、地球環境に優しい電池でもあります。近年の地球温暖化をはじめとする環境問題の観点からも、リチウムイオン電池のさらなる普及と、より様々な目的にあった形での応用技術が発展していくでしょう。特に、クリーンエネルギーの蓄電システムにおいては、すでに家庭用から工場用まで様々な規模での活用が進んでいます。また、今後の世界規模でのEVの普及においても(2022年「EV」最新事情)、リチウムイオン電池は大きな役割を担っています。

一方で、普及に伴う課題もあります。リチウムイオン電池の主要な材料であるリチウムやコバルトなどは、その供給を一部の国や地域に強く依存しているという偏在性があります。リチウムの場合は、オーストラリアやチリ、中国が主要な産出国です。コバルトはコンゴ民主共和国が大きな供給国となっています。
こういった材料の偏在性は、日本の経済安全保障の観点からも重要な問題です。これらの国々からの供給に依存し、例えばそれが途絶えた場合には、多くの製品製造やシステム稼働が困難となり、経済的な影響は莫大なものとなる可能性があります。また、リチウムイオン電池は無人航空機や軍用車両などにも使用されているため、国防上の重要な要素と言えます。

日本ではこうした材料供給の偏在性とリスクに対処するため、様々な対策が進められています。異なる国や地域からの供給源を確保するため、リチウムなコバルトの生産国に他国的なアプローチとり、同時に、新たな鉱床の開発や代替材料の研究開発を積極的に行っています。
リチウムイオン電池のリサイクル技術の開発も進められています。リサイクル技術を発展させることで、すでに使用された電池から、貴重な材料を回収することで有効活用し、供給リスクの軽減にも繋がります。

蓄電池システム×リチウムイオン電池の未来

蓄電池システム×リチウムイオン電池の未来

ここまでリチウムイオン電池の様々なメリットと課題を見てきましたが、蓄電システムにおいても、リチウムイオン電池はとても重要な役割を果たしています。
リチウムイオン電池は高いエネルギー密度を持ち、効率的に電力を蓄えることが可能なため、限られたスペースに設置する蓄電システムの効率性と性能が飛躍的に向上します。また、高速で充放電ができるので、需要変動や災害時などの瞬間的な電力需要に対しての応答や、ピークシェービング(コストと容量にかかる追加料金を制限または削減するために、需要の高いエネルギー消費間隔を制御する方法)などの用途でも重要な役割を果たします。
また、蓄電システムは長期的なエネルギー貯蔵がポイントとなるため、その点においてもリチウムイオン電池の優れた寿命特性は、システムの持続的な運用のコスト効率を担っていると言えるでしょう。

GX推進法案の成立も追い風となり、現在、日本でも官民投資によりリチウムイオン電池の国内生産や、技術開発が積極的に進められています。さらなる製造技術の進歩により大規模な製造が可能になれば、蓄電システムはより様々な形で発展していくことになるでしょう。
より地球に優しいかたちでの「電力の在り方」を模索しながら、リチウムイオン電池の可能性はまだまだ広がり続けています。ニチコンではより安心・安全な蓄電システムの技術開発で、これからの「電池」のカタチを皆さまにお届けしています。

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