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電力が足りなくなる!?
知られざる生成AIの電力事情。2026.01.30

電力が足りなくなる!? 知られざる生成AIの電力事情

2022年のChatGPTの登場以来、劇的な進化を続けている生成AI。皆さんも、仕事やプライベートで、日々利用している人が多いのではないでしょうか。ところが、そんな生成AIの今後を左右する大きな問題が浮上してきました。それは、電力問題です。実は、私たちが便利に生成AIを利用している裏側で、大量の電力が消費されているのです。このままでは世界中で電力不足に陥るかもしれません。生成AIの電力事情についてわかりやすく紹介します。

なぜ生成AIの普及で電力が不足するのか?

生成AIで電力が不足すると言っても、ピンとこない人が多いかもしれません。いったいどこで、それほど大量の電気が消費されているのでしょうか。犯人は、生成AI用のデータセンターです。

データセンターには、膨大な演算処理を効率的に行う高性能な半導体(AIチップ)を搭載したサーバーが数千台から数万台設置されています。このAIチップは、通常の半導体の約10倍の電力を消費すると言われ、24時間ほぼ休みなく稼働しているため消費電力は膨大なものになります。
また、消費電力が大きいことから発熱量も大きく、サーバーの冷却には空調設備のほか、液体で機器を冷やす高性能な冷却装置なども必要になります。こうした設備の電力消費も一般的なデータセンターとは比べものになりません。生成AI用のデータセンターの電力消費量は一般家庭1万〜1万6,000世帯分に相当すると言われています。

データセンターの建設ラッシュによって、日本の年間電力消費量も2024年度から増加に転じました。さらに最大需要電力(1年間で最も電気が使われた瞬間の電力)も上昇を続け、2034年度には1億6,459万 kWに達すると予測されています。データセンターは昼夜・季節関係なく連続稼働するため電力需要を底上げします。そのため猛暑などによるピーク時に電力需給が逼迫しやすくなり、計画停電や最悪の場合ブラックアウトにつながるおそれがあります。

電力不足でAI開発は失速する?

出典:電力広域的運営推進機関ウェブサイト「2025年度全国及び供給区域ごとの需要想定について」

※2025年1月時点でのデータセンターなどの電力供給申込状況をもとに推計。2031年度以降の伸びが鈍化しているが、今後の新増設申込の動向により変わる可能性がある。

電力不足でAI開発は失速する?

こうした電力需要の増加は、多方面にさまざまな影響を及ぼす可能性があります。しかし、最も大きな影響を最初に受けるのは、他ならぬ生成AI自身です。データセンターの新設ができなくなり、生成AIの進化にブレーキがかかるかもしれません。

すでに東京電力には、新たなデータセンター向けの電力供給依頼が殺到し、その規模は約950万kWと言われています。これは単純計算で原子力発電所約 9 基分です。新たな発電施設の建設や送配電設備・変電所の増設には多くの時間がかかるため、工事の着工からデータセンターへの電力供給まで約6年から10 年かかると見積もられています。数年後には、データセンターが完成しても電力が確保できず稼働できない事態になるかもしれません。

こうした状況は、AI 先進国である米国ではさらに深刻です。生成 AIブームの火付け役となったOpenAIをはじめ、マイクロソフト、メタ・プラットフォームズ、アルファベット、アマゾン・ドット・コムなど巨大 IT企業がひしめく米国は、世界で最もデータセンターの多い国です。ゴールドマン・サックスは、現在の成長ペースが続いた場合、米国のデータセンターが消費する電力量は、2030年に年間500TWh(テラワット時)に達すると試算しています。これは、米国内全体の電力需要の10%を超える規模です。

もちろん米国でも、これだけの電力需要にすぐに応えることはできません。米国では送電網の老朽化と容量不足という問題もあるため、トランプ大統領の主導で火力発電所を増設しても、データセンターへ電力を届けるには、やはり10年ほどかかると予測されています。

電力確保に奔走する巨大IT企業

日進月歩で進化する生成AIや半導体の世界で、新たなデータセンターの稼働に10年もかかってしまうのは致命的です。完成から10 年も経てば、最先端技術を投入したデータセンターも無用の長物と化してしまいます。
このため米国では、電力会社に頼らず IT 企業が自ら電力を調達する動きが活発化しています。最も早くから導入が始まったのが天然ガスで発電する大型ガスタービンです。早ければ2年程度で建設でき、データセンターの近くに設置すれば、送電網の増設を待たずに電力を確保できます。しかし、シーメンスや日立製作所が供給する大型タービンの納期はすでに4年待ちの状態です。

次に注目されたのが原子力発電です。メタ、マイクロソフト、アマゾンは、稼働から数十年が経過した既存の原子炉と長期電力契約を締結したほか、新規の原子力発電所建設に乗り出すIT企業も現れています。また、マイクロソフトは1979年に炉心溶融(メルトダウン)が発生したスリーマイル島原子力発電所から20年間にわたり電力を購入する契約を結び、大きなニュースになりました。事故を起こしていない1号機を2027年にも再稼働する予定だといいます。

さらにグーグルやアマゾンは、次世代原子炉「小型モジュール炉(SMR)」のプロジェクトに資金を投入し、未来の技術とも言われる核融合発電の開発へ向けて、ベンチャー企業への投資も進めています。しかし、小型モジュール炉の実用化は2030年以降、核融合発電は2040年代以降になる見込みであり、足元では天然ガスなどの化石燃料に頼らざるを得ない状況です。これに対して、国連のグテレス事務総長は「2030年までにすべてのデータセンターを再生可能エネルギーで稼働させるべきだ」と地球温暖化対策への警鐘を鳴らしています。

電気代の値上げにつながる?



電気代の値上げにつながる?

また、電力需要の急増は、私たちの電気代の上昇につながる可能性もあります。すでに米国では、電力大手約30社が、2025年前半に値上げを申請しました。

例えば、世界最大のデータセンター集積地として知られる米バージニア州で電力事業を担うドミニオン・エナジーは、データセンター向けの電力需要がほぼ倍増したことから、送配電線や変電所の整備負担が巨額になり、2026年から標準家庭の電気代を月8.5ドル、2027年からはさらに2ドル値上げする申請を行っています。また、アリゾナ州の電力会社APSは2026年から標準家庭で月20ドルの値上げを申請し、ニューヨーク州でも家庭向け料金の値上げが認められました。

日本でも、データセンターが集中する地域では米国と同様に値上げの可能性があります。電力会社が送配電設備の増設を行う場合、私たちが支払っている電気代に含まれる託送料金(送配電網の利用料)が原資となります。託送料金は電気代全体の3割を占め、2024年から2025年にかけて、高圧・特別高圧で値上げされました。家庭用の値上げも時間の問題かもしれません。

電力不足や環境問題など、社会にさまざまな影響を及ぼしながらもAIの進化は今後も続くことでしょう。AIはただ便利なだけでなく、経済や軍事・安全保障の面で、国家の覇権を左右する重要な技術になりつつあるからです。
現在、世界のAI開発競争は高性能な半導体開発力でリードする米国を、世界トップクラスの発電能力をもつ中国が猛追する格好になっています。熾烈な競争はいったいいつまで続くのでしょうか。そして、その先には、どんな未来が待っているのでしょうか。

出典・参考文献
○経済産業省 「今後の電力需要の見通しについて」2025年1月27日 資源エネルギー庁
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/085_06_00.pdf
○東洋経済オンライン 「データセンター急増!電力が足りなくなる?」
https://www.youtube.com/watch?v=xuEIENqXwgE
○Forbes JAPAN 「385兆円のAI投資で「電力需要爆発」、それでも揺るがない米国インフラの底力」
https://forbesjapan.com/articles/detail/86148/
○JIJI.COM 「AIで電力需要急拡大 米、原発150基分増加―エネルギー激変」
https://www.jiji.com/jc/article?k=2026010300196&g=int
○日本経済新聞電子版 「データセンター急増が促す米電力値上げ 送配電投資増、家庭向け2割高」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC043CQ0U5A900C2000000/

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