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夢物語が現実になる?
動き出した宇宙太陽光発電。2025.11.28

夢物語が現実になる?動き出した宇宙太陽光発電。

宇宙に浮かぶ発電所から地球に電力を供給する。まるでSFの世界のような宇宙太陽光発電システムの研究が世界各国で着々と進行しています。実用化されれば、電力の脱炭素化を実現し、地球温暖化抑止に大きく貢献できるとともに、エネルギーの安定供給も可能になります。電力の未来はどのように変わるのか、宇宙太陽光発電のしくみと実用化の時期などについて紹介しましょう。

電気は宇宙でつくる時代がやってくる

宇宙太陽光発電とは、巨大な太陽光パネルを備えた人工衛星で発電を行うシステムです。その大きさは、数百mから数kmにもおよび、太陽光パネルを大量に連結したものや太陽光を集める巨大な鏡を備えたものなどが計画されています。こうした衛星が、高度約3万kmほどの宇宙空間を周回しながら発電し、電気をマイクロ波やレーザーに変換して地上に送信します。

実は、宇宙空間で発電を行うこと自体は決して珍しいことではなく、現在稼働しているほぼすべての人工衛星には太陽光パネルが搭載され、エネルギーを自給自足しています。例えば、国際宇宙ステーション(ISS)には、35.5m × 11.6mの太陽光パネル8基と、約19m × 約6.0mの太陽光パネルが6基装備され、最大約215kWの電力を発電しています。

また、電気をマイクロ波やレーザーに変換して送るワイヤレス送電も技術としてはすでに実用化されています。身近な例では、スマートフォンのワイヤレス給電がこれにあたります。ただし、宇宙太陽光発電に求められる長距離での大電力送電はまだ研究段階にあり、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)や宇宙システム開発利用推進機構(JSS)を含め、各国の機関が実証実験を行っています。

一方、宇宙からの送電を受け止める地上の施設は、レクテナ(Rectifying Antenna:整流アンテナ)と呼ばれています。構造は、メッシュ状の巨大なネットを広げたようなイメージで、既存の技術で構築可能です。ただし、その大きさは直径数kmになる計画で、日本では洋上での設置が現実的だと考えられています。
太陽の無限のエネルギーを活用する宇宙太陽光発電システムは、これまでの発電システムに比べて桁違いのビッグスケールであり、人類史上最も巨大な建造物になると言われています。

巨大な太陽光パネルを備えた人工衛星

計り知れない宇宙太陽光発電のメリット

この桁違いのプロジェクトに世界各国が積極的に取り組む理由は、そのメリットの大きさにあります。
最大の利点は、発電効率が非常に高く、極めて安定的に電力を供給できることにあります。ご存知の通り、現在の太陽光発電は、夜間はもちろん、天気の悪い日も発電量が大きく低下してしまい、その不安定さが太陽光発電のみならず再生可能エネルギー発電の普及の妨げにもなっています。その点、宇宙太陽光発電なら、地球の影に入らない軌道を周回することで24時間安定的に発電ができます。
しかも、地上では大気の吸収・散乱によって太陽光が弱まってしまいますが、宇宙では太陽のエネルギーをフルに活用することができ、地上に比べて1.5倍〜2倍の発電量が期待できます。

こうした宇宙太陽光発電が実用化されれば、発電の脱炭素化が一気に進み、地球温暖化抑止に大きな効果が期待できることは言うまでもありません。とくに、日本のように発電量の約7割を火力発電に頼っている国にとって、その効果は絶大なものになるでしょう。
さらに、原油や天然ガスを海外に頼っている日本では、エネルギーの安全保障の面でも重要な意味をもちます。国際情勢の変化や原油価格の高騰などの影響を受けずにエネルギーを自国で確保できるようになり、エネルギーの輸出国になることさえ可能です。宇宙太陽光発電は送電線が不要なので、マイクロ波の射出方向を変えるだけで、どこにでも電力を供給することができます。

宇宙太陽光発電のイメージ

日本が世界をリードする宇宙太陽光発電

実用化に向けた開発競争が激しくなるなか、その先頭を走っているのが、他ならぬ日本の技術です。
もともと宇宙太陽光発電が発案されたのは、1960年代のアメリカでのことでした。当時は、東西冷戦の時代であり、米国とソビエト連邦(現・ロシア)との間で激しい宇宙開発競争が行われていたことから、次世代の開発テーマになったようですが、膨大なコストと技術的な難易度の高さから、その後、顧みられることがありませんでした。
一方、日本は経済大国でありながらエネルギー資源に乏しいことから、1980年代から官民協同で基礎研究を推進し、2000年以降JAXAや経済産業省を中心に、宇宙太陽光発電を国家エネルギー戦略・再生可能エネルギー政策に位置づけ、地道な研究を重ねてきました。

とくに最近では、宇宙太陽光発電の要である送電技術において大きな成果をあげています。宇宙システム開発利用推進機構(JSS)は、2024年に7,000m上空を飛行する航空機から地上への無線送電実験を行い、世界初となる5km超の無線送電に成功しました。それまで、数百m程度だった送電距離を大きく延伸するとともに、実際の衛星からの送電を見据えて、時速700kmで移動する飛行機からの送電に成功したのです。
さらに実験では、限られた範囲にマイクロ波を集中させるビーム形成技術や、ビームを狙った場所に当てる方向制御技術でも大きな成果を得ることができました。

2030年代には小型衛星での実験がはじまる

このように期待の高まる宇宙太陽光発電ですが、実用化はいつ頃になるのでしょうか。宇宙システム開発利用推進機構(JSS)によると、2030年代には小型衛星による宇宙での実証実験を開始し、2050年頃の実用化を目指す計画だといいます。しかし技術的課題が多いのが実情であり、JAXAでは、次の2点を克服すべき大きな課題として挙げています

まず、送電技術について、マイクロ波、レーザー光、いずれを使用する場合であっても、高度約3万kmから巨大なエネルギーを伝送するにはまだ数多くの技術的ハードルを超える必要があります。さらに、送電に用いるビームが生態系や社会、産業へ及ぼす影響についても検証が必要です。

また、発電所となる衛星を建造するための宇宙輸送システムも大きな課題です。原子力発電所1基分(1GW)の電力を発電する場合でも、約2km四方の巨大な太陽光パネルが必要になり、重さは1万トン以上になると予想されています。これだけの資材を宇宙に運ぶためには大型かつ安価な宇宙輸送機が必要になりますが、現時点ではその目処が立っていません。また、建造中や運用後の宇宙ゴミとの衝突リスクの回避や修理方法なども課題として挙げられています。

いまだ道のりの険しい宇宙太陽光発電ですが、成功すれば太陽という無限のエネルギーを手にすることができる、まさに夢のプロジェクトです。多方面の技術革新によって、空想上の物語だった宇宙太陽光発電が、人類の手に届くようになってきた今、宇宙で発電した電気を使う時代がやって来るのも意外と早いかもしれません。

出典・参考文献
○内閣府 宇宙開発戦略本部決定 令和5年6⽉13⽇閣議決定「宇宙基本計画」
https://www8.cao.go.jp/space/plan/keikaku.html

○JAXA 宇宙太陽光発電システム(SSPS)の研究
https://www.kenkai.jaxa.jp/research/ssps/ssps.html

○宇宙システム開発利用推進機構(JSS)
https://www.jspacesystems.or.jp/project/observation/ssps/?utm_source=chatgpt.com

2024年度実証実験速報「航空機を用いた長距離無線送電実証実験」(2024年12月)
https://www.jspacesystems.or.jp/jss/wp-content/uploads/2024/12/Flight-Test-Results-Summary_
2024.12.12.pdf


宇宙太陽光発電システム(SSPS)の実現に向けた研究開発の現状(2023年6月)
https://www.jspacesystems.or.jp/jss/wp-content/uploads/2023/08/ISTS2023_SSPS.pdf  

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