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わが家でも使えるの?
200V専用家電のメリットとは。2025.09.30

わが家でも使えるの?200V専用家電のメリットとは。

家庭用の電源と言えば100Vが当たり前でしたが、最近、大型のエアコンやIHクッキングヒーターなど、200V用の製品を目にすることが多くなってきました。また、EV用の充電設備やエコキュートの設置にも200Vの電源が必要です。なぜ、100Vと200Vという2種類の電圧が使われるようになったのでしょうか。そして、家庭で200Vを使うにはどうしたらいいのでしょうか。今回は、世界でも日本だけと言われる、家電製品の100Vと200Vの問題をクローズアップします。

100Vから200Vへ、電圧を上げると何が変わる?

家庭の電圧を100Vから200Vにすると、何が変わるのでしょうか。簡単に言えば、パワーがアップします。そもそも電圧とは電気を流す力のことで、水道にたとえると水圧にあたります。100Vより200Vの方が勢いよく水(電流)が流れるので、消費電力の大きな電気製品を効率的に動かすことができます。
例えば、消費電力1,000Wのエアコンを100Vと200Vで動かすとしましょう。電力(W)=電圧(V)×電流(A)なので、次のようになります。

○100Vの電源で動かすと 100V×10A =1,000W
○200Vの電源で動かすと 200V× 5A =1,000W

このように、電圧が高いと流す電流が少なくて済みます。200Vは電気を流す力が強いので、5Aの電流を流すだけで1,000Wの仕事ができますが、100Vは電気を流す力が弱いので、2倍の10Aの電流を流さないと同じ仕事ができません。洗車をするときに、水圧が強ければホースから勢いよく水を噴射できて汚れを簡単に洗い流せるのに対して、水圧が弱いと、大量の水を流さないと汚れが落ちないのと同じイメージです。

200Vは、消費電力の大きいハイパワーの家電製品を少ない電流で効率的に運転するのに適した電圧です。実際、200V用の家電製品は消費電力が大きく、エアコンの場合、100V用は6畳~12畳向けが中心で消費電力は500W~900W程度。200V用は14畳以上、または寒冷地仕様の製品が多く、消費電力は1,000W~1,300W程度になっています。

200V用のIHクッキングヒーターなら、揚げ物もカラっと美味しく

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200Vなら消費電力の大きな家電を安全に使える

さらに、200Vの電源には、もうひとつ重要な特長があります。それは安全性です。前述の通り、100Vでも電流を多く流せば、消費電力の大きな製品を動かすことはできます。しかし、流れる電流が多くなると、配線が発熱してエネルギー損失が大きくなることに加えて、漏電や火災のリスクが高まります。
このため、住宅にはブレーカーが設置されていて、契約アンペアを超えると、安全のために電気を遮断する仕組みになっています。例えば、一般家庭(100V/契約アンペア40A)での電気の使用例をみてみると、

○通常使用機器(照明・テレビ・冷蔵庫など) 合計 約5A
○消費電力の大きい機器1 電子レンジ 約10A
○消費電力の大きい機器2 ドライヤー 約12A
合計 約32A


仮にこの状態で1,000Wの大型エアコンを使うと、1,000W=100V×10Aなので、10Aの電流が流れてしまい、合計42Aになりブレーカーが落ちてしまいます。近年のように猛暑によるエアコンの連続運転が増えるなか、100V電源で高出力のエアコンを使うのはほぼ不可能といえるでしょう。

一方、200V電源を導入すれば、1,000Wのエアコンでも5Aしか流れないので、通常の使用ではブレーカーが落ちる心配は少なくなります。そのため、消費電力の大きな製品は200V専用として設計されているのです。

200Vのコンセントを設置するのは意外と簡単

では、自宅で200Vを使えるようにするにはどうしたらいいのでしょうか? 実は、意外と簡単です。
ほとんどの戸建て住宅では、単相3線式と呼ばれる方式で電柱から電気が引き込まれているので、100Vも200Vも使える仕様になっています。そのため、200V専用のブレーカーを追加して、200Vの電気製品を使う場所まで専用配線を引いて専用コンセントを設置すれば準備は完了です。すべてを200Vにするわけではなく、100Vのコンセントはそのまま残し、200V用のコンセントを追加する形になります。
工事費用は、住宅の状況によって異なりますが、上記のように単相3線式になっていれば、数時間の工事と数万円程度の費用で行うことができます。

200V専用コンセントは、使用する電気製品によって形状が異なります

※200Vコンセントには上記以外に産業・農業用の三相200Vのタイプもあります

200Vに変えても、電気代は変わらない?

200Vに変えると電気代が上がるのでは? と思っている人が多いかもしれませんが心配は無用です。電気の基本料金は電圧を変えても変わりません。また、使った分に応じて払う電力量料金は、使用する電気製品の消費電力と使用時間で決まるので、同じ電気製品を使うのであれば、100Vでも200Vでも電気代は変わりません。

電力量料金 = 消費電力(kW) × 使用時間 × 電力量料金単価(円/kWh)

では、200Vコンセントを新設して、これまで使っていた800Wのエアコンを、200V用の1,000Wのエアコンに買い替えると電気代はどうなるのでしょうか。計算上は、800Wから1,000Wに消費電力が上がった分だけ電気代も上がる計算になります。しかし、200V用の家電製品は運転効率がよく、省エネ性能にも優れているので、そこまで大きな差にはなりません。
そもそも家電製品の消費電力は、最大出力時の数値です。200V用のエアコンは、室内を短時間で冷やせるので、運転中のほとんどの時間は1,000Wをかなり下回る電力で運転されます。これに対して、100V用のエアコンは、冷やすのに時間がかかり消費電力が大きい状態が長く続きます。両者の差は思ったほど大きくなりません。

日本は100Vを使う唯一の国

こうしてみると、ブレーカーが落ちる心配が少なく、電気代を気にせずに高出力な家電製品を使える200Vの方がメリットが大きいように思います。なぜ、100Vが標準的な電圧になっているのでしょうか。

実は、標準電圧として100Vを採用しているのは世界でも日本だけです。欧州各国や中国、韓国などのアジア諸国もほとんどが220~230Vを標準電圧としています。100V台を採用しているのは、アメリカやカナダの120V、台湾の110V程度で、多くの国は200V台です。つまり、日本の標準電圧は、世界で最も低いと言えます。

歴史を振り返ってみると、19世紀末に電気が普及し始めた頃は、各国ともほぼ100Vでした。その理由は、電気利用の中心だった白熱電球を明るく長持ちさせるのに最適な電圧だったからです。
その後、電気の利用が広がり発電所から遠くまで送電するようになると、電圧を上げた方が効率的に電気を届けられることから、徐々に引き上げられていきました。
そんななか、日本が電圧を上げなかったのは、安全性を重視したためだと言われています。高電圧は感電死の危険があり、とくに日本は湿気が多く、木造家屋が多いため、感電リスクが高いと考えられていました。濡れた手で200Vに触れると致命的な影響を受けてしまうことから、200Vは危険だという世論の広がりもあり、200Vへの変更機運は高まりませんでした。

しかし、1960年代頃から家庭で使う電気製品が増え始め、100Vだけでは電気容量が不足する懸念が出てきました。そこで、電力会社では将来の需要に備えるために、電気の供給方式を従来の100V専用の単相2線式から、200Vも使える単相3線式に変更する取り組みを独自に進めました。後に、この方針を政府も追認することとなり、新築やリフォームの際に、電柱から住宅への引き込み線を1本増やし、単相3線式に変える工事が行われました。こうした取り組みによって、100V利用を維持しつつ、いざとなれば200Vも使える環境が整ったのです。

大出力のIHクッキングヒーターや電気オーブン、衣類乾燥機など、200V専用の家電製品が増えているなか、いよいよ、家庭でも200Vを使うのが当たり前になるかもしれません。200Vコンセントを追加するのも意外と簡単です。より快適な生活へ、みなさんのご家庭でも検討されてみてはいかがでしょうか。

出典・参考文献
○(株)計測技術研究所 「世界の電源電圧・周波数」
https://www.keisoku.co.jp/pw/solution/oyakudachi/world_vol/?utm_source=chatgpt.com

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