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迷惑なだけじゃない、
未来に役立つ「静電気」のひみつ。2025.05.30

気候変動対策の最前線、未来を守るクライメイトテックとは?

静電気と言えば、ドアノブに触れた瞬間の「バチッ」と走るあの衝撃。最近は、さまざまな対策が進み、不快な衝撃を受ける機会も減りましたが、静電気は季節を問わずいたるところに存在し、私たちの暮らしや社会に役立つ存在でもあります。また近年では、未来のエネルギーとしても期待されるなど、改めて注目が集まる静電気のひみつについて紹介しましょう。

なぜ静電気は発生するのか ?

静電気の歴史は意外に古く、初めて発見されたのは紀元前 600 年頃。古代ギリシャ時代の哲学者タレスによるものだと言われています。タレスは、アクセサリーの琥珀に付いたほこりを取ろうと布で磨いていたところ、磨けば磨くほどほこりが付いてしまうことから、琥珀を磨くとほこりを吸い寄せる力が生じることを発見しました。
みなさんも、子供の頃に布でこすったプラスチックの下敷きに紙をくっつけたり、髪の毛を逆立てたりする遊びをした経験があると思います。では、なぜこするだけで下敷きに髪の毛がくっつくのでしょうか。それは、摩擦によって髪の毛 ( 人体 ) から下敷きに電子が移動し、下敷きがマイナスに、髪の毛がプラスに帯電することで、両者の間に引き合う力 ( クーロン力 ) が発生するからです。

こするだけで電子が移動するのは不思議な感じがしますが、ほとんどの物質は、他の物体との摩擦によって電子の移動が起こります。また、物質には電子を奪いやすいものと、電子を手放しやすいものがあり、それぞれの性質が強いもの同士をこすり合わせると容易に電子が移動します。
電子の奪いやすさ・手放しやすさは、下記の帯電列で表され、前述の下敷き( ポリエチレン )と髪の毛 ( 人体 )は、電子が移動しやすい組み合わせのひとつです。

このように電子の移動によって物質がプラスやマイナスに帯電している状態は、一時的に電気を蓄えている状態とも言えることから、「動かない電気 = 静電気」と呼ばれます。一方で、コンセントや電池から流れる電気のことを、回路を流れる電気 = 動電気と呼ぶことがあります。

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「バチッ」という痛み、その電圧は 3,000V

静電気も、動かない電気として物質の中に蓄えられているだけなら何の問題も起こりません。髪の毛と下敷きも、一時的に帯電して引き合いますが、たまった電気は時間とともに緩やかに放電してしまいます。
しかし、物質の中にたくさんの静電気がたまってしまうと、周囲との電位差が大きくなりエネルギー的に非常に不安定な状態になるため、急いで中性に戻ろうとする力が働きます。このときに、近くに電気を通しやすいもの ( 導体 ) があると、一気に電子が移動 ( 放電 ) してしまい、ドアノブに触れたときの「バチッ」というショックにつながります。

下敷きで髪の毛をいくらこすっても、ドアノブのような衝撃を受けないのは、下敷きは表面積が少ないので多くの静電気を蓄えられないことと、電気を通しにくい絶縁体であるためです。仮に静電気がたくさんたまっても、絶縁体の中では電子はゆっくりとしか移動できないため、痛みを感じるほど一気に放電することはありません。

一方、人間の体は大きいので、衣服や床、クルマのシートとの摩擦でどんどん静電気がたまります。さらに、人体は電気を通しやすいので、同じく電気を通しやすい金属に触れると一気に放電し、不愉快な痛みを感じることになります。
ちなみに、このときに発生している静電気の電圧は 3,000V 以上に達し、家庭用コンセント (100V) の30 倍という高電圧です。しかし、流れる電流は微弱なためケガをするようなことはありません。

製造現場や宇宙空間で、静電気は大きな脅威

こうした静電気の放電は、人にとっては一瞬の痛みで済みますが、工場などモノづくりの現場では、大きな被害が発生することがあります。

とくに、電子部品を扱う製造現場では、静電気の影響は極めて深刻です。半導体や IC チップなどの超精密部品は、わずかでも想定を超えた電圧がかかると回路が破壊されてしまいます。そのため、製造現場では、人体に静電気がたまらないようにリストストラップ (アース) を装着し、作業台や椅子、フロアマットなどには、静電気を防止する素材を使用しています。
また、可燃性の粉塵を扱う化学工場や食品工場では、静電気の放電による火花が大爆発を引き起こすリスクがあります。ガソリンスタンドで給油前に金属に触れて放電するよう指示されるのも、まさにこの対策の一環です。

さらに、宇宙空間でも静電気は大きな脅威です。人工衛星や宇宙船は、太陽風や宇宙塵との摩擦で静電気が発生しやすいため、放電によってセンサーが誤作動を起こしたり、機器が破損したりする可能性があります。人工衛星が故障する原因の半分以上が静電気によるものだと言われ、宇宙服をはじめとしたあらゆる物に静電気対策が施されています。

クライメイトテックの3つの目的

暮らしや社会に貢献している静電気もある

このように、嫌われることの多い静電気ですが、実は、私たちの暮らしや仕事に役立っている静電気もあります。たとえば、オフィスで欠かせないコピー機やレーザープリンター。これらは静電気の力で、トナーを紙に転写・定着させることで印刷をしています。もしコピー機やプリンターが無かったらと思うと、その有り難みを改めて感じてしまいます。

空気清浄機やエアコンに搭載されている集塵機能も、静電気の力で空気中に浮遊しているほこりやちりを集め、フィルターに吸着させています。また、自動車の美しいボディ塗装にも、静電気が欠かせません。塗装用のスプレーガンに電圧をかけて塗料をマイナスに帯電させ、被塗装物をプラスに帯電させる静電塗装という技術で、均一な塗装を実現しています。被塗装物の形状に関わらず、裏側や細部まできれいに塗装できる上、帯電していない部分には塗料が吸い寄せられないので、塗料のロスも少なくできるそうです。
ほかにも、パソコンや家電製品などの細かなゴミを吸着して除去する静電気のブラシやモップなどはみなさんも使ったことがあることでしょう。

さらに、農作物の害虫や空気中を漂うウイルスなどを静電気の力を使って除去する研究も進められています。温暖化の影響で深刻化しつつある害虫被害も、静電気を使えば農薬を使わずに対処でき、新たな感染症の対策にもその効果が期待されています。静電気は「制御できれば」非常に有用な技術なのです。

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静電気で発電できる未来が来る

さらに、最近では、静電気を利用して発電する研究も積極的に行われ、トライボエレクトリック・ナノジェネレーター (TENG: 摩擦発電ナノ発電機 ) が注目を集めています。

TENG は、さまざまな物質を用いて静電気を発生させ、その電気を静電誘導で取り出す技術です。例えば、ゴムとフィルムを使った小さな摩擦発電機を靴のインソールに仕込めば歩くだけで発電ができ、床材に仕込めば、その上を人が歩くだけで発電ができます。衣類に仕込めば、着ているだけで発電ができてしまうそうです。TENG による発電装置のメリットは、非常に軽量・柔軟な素材で作れることと、ごくわずかな力(圧力・振動・摩擦)でも発電できること、そしてバッテリーや充電が不要な機器が作れることです。
課題は発電量が小さいことでしたが、IoT 端末や医療用のセンサー、各種ウェアラブルデバイスなど、小型で省電力の電子機器が普及するにつれて、可能性が大きく広がりつつあります。

今から約 2,000 年以上も前に発見され、多くの人々を驚かせ、科学者たちの好奇心をかき立て続けてきた静電気。18 世紀になって、その正体が電気だとわかった後も、さまざまな利用方法が開発され、今もなお、新たな可能性を広げ続けています。人類が初めて出会った電気である静電気が、これからどんな未来を見せてくれるのか楽しみにしたいものです。

出典・参考文献
○キーエンス 静電気ドクター
https://www.keyence.co.jp/ss/products/static/static-electricity/basic/about.jsp
○Securities.io 摩擦電気センサー
https://www.securities.io/ja/triboelectric-sensors-set-to-play-a-role-in-next-gen-wearables/

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