「在宅避難」に備えよう。
気候変動対策の最前線、未来を守るクライメイトテックとは?2025.04.28
年々深刻化する地球温暖化の影響。猛暑だけでなく、暴風や豪雨・豪雪など、年間を通じた気候の不安定化は、社会や産業、そして私たちの暮らしにとって無視できないものになりつつあります。こうした状況に立ち向かう新たな技術として注目を集めているのが「クライメイトテック」(気候テック)です。果たして、温暖化抑止へ向けた希望の光となるのでしょうか。世界中の技術者が挑戦しているクライメイトテックの最前線をご紹介しましょう。
それは、気候変動時代を生き抜くための技術
クライメイトテック(Climate Tech)とは、文字通りClimate(気候)のTech(技術)であり、気候変動を抑止するとともに、温暖化によるさまざまな悪影響に対処するためのテクノロジーの総称です。
これまで、温暖化対策の技術というと、太陽光発電や燃料電池、バイオ燃料などエネルギー関連が中心でしたが、クライメイトテックには、いよいよ現実のものとなってきた気候変動時代を生き抜くための幅広い技術が含まれています。
例えば、これまでも行われてきたCO2 排出量を削減する技術に加えて、気候変動の分析・予測技術や、二酸化炭素の回収・利用・貯留技術(CCUS)、高温に耐える農業技術、環境負荷の少ない代替肉の開発技術、気候リスクを補償する金融や保険(フィンテック)など、ユニークな技術が数多く含まれています。
関連する産業も、エネルギー産業から、モビリティ・輸送、建設、重工業、食品、農業、畜産業など多岐に渡ります。
クライメイトテックの3つの目的とは
クライメイトテックはあまりにも範囲が広いため、「イメージがつかめない」「何がクライメイトテックなのかわかりにくい」という声もよく聞かれます。そんなときに理解を助けてくれるのが、クライメイトテックの3つの目的を知ることです。
クライメイトテックの目的とは、「1.気候変動を理解する」「2.気候変動を緩和する」「3.気候変動に適応する」であり、すべてのクライメイトテックは、この3つに分類できます。では、それぞれについて具体的に説明していきましょう。
1番目の「気候変動を理解する技術」とは、効果的な温暖化対策を行う上で、最初の一歩となるものです。温室効果ガスや気候変化の現状について情報を分析・予測し、「どこで・いつ・何が・どのくらいの影響を受けるのか」を明らかにする技術です。
例えば、気温・降水量・海面上昇などを数十年スパンでシミュレーションする「気候モデル(GCM)」や、地域ごとのリスクを地図上で可視化する「地理情報システム(GIS)」。気象データや過去の災害データをもとに被害パターンを予測するAI。リアルタイムでの地表温度、海面、土壌水分量などを観測するIoTセンサーや衛星観測などがあります。
気象情報会社である日本のウェザーニューズでは、2021 年から気候変動リスク分析サービス「ClimateImpact」を提供しており、これもクライメイトテックのひとつです。2100年までの気候リスクをピンポイントで高精度に算出し、ビジネスや生活への影響、農作物の収量変化の予測などさまざまなリスク評価に用いられています。
小型原子炉や大気中のCO2回収など、新技術が続々登場
2番目の「気候変動を緩和する技術」は、従来から行われてきた温室効果ガスの排出量を削減するための技術です。エネルギーの脱炭素化や、生産プロセスの脱炭素化、暮らしの脱炭素化など、すでにさまざまな取り組みが行われていますが、クライメイトテックの潮流の中で革新的な技術も次々と登場しています。
例えば、米国の カイロス・パワー社は、高い安全性と効率性を兼ね備えた小型原子力発電施設の開発を進めています。すでに発電施設建設を開始しているほか、Google社と提携し、データセンター向けの小型モジュール炉(SMR)を開発。クリーンエネルギー供給の新たなモデルとして注目されています。
また、米国のピボット・バイオ社は、近代農業に欠かせない窒素肥料が、生産段階でも、農地に散布された後でも多くの温室効果ガスを発生することから、微生物を利用して作物の根に直接窒素を供給する方法を開発しました。これによって、化学肥料の使用を抑えることができるため、すでに多くの農家が同社製品を導入しているそうです。
一方、温室効果ガスの排出量削減だけでなく、大気中のCO2を回収する技術開発も進んでいます。
スイスのClimeworks社は、大気中から直接CO2を回収する技術を開発し、2021年にアイスランドで世界初の大規模なCO2 回収プラントの操業を開始しました。大型ファンで周囲の空気からCO2 を吸い込み、水と混ぜて固形化し、地下に貯蔵することで、年間4,000トンのCO2を除去できるそうです。
スイス・インターナショナル・エアラインズは、同社と提携し、回収したCO2から持続可能な航空燃料の製造を行うプロジェクトを開始しました。航空機の飛行に伴って大量に排出されるCO2を回収し、再び燃料として活用する取り組みとして、大きな成果が期待されています。
日本でも、ENEOSがClimeworks社のCO2回収装置を導入し、回収したCO2を合成燃料の原料として使用する検証を開始しました。さらに、いよいよ開幕した大阪・関西万博では、鹿島建設が作ったCO2を吸収・固化するコンクリートでできたドームが話題を集めています。
気候変動から人類を守る最後の砦
3つ目の「気候変動に適応する技術」は、CO2排出量削減を中心とした気候変動対策を行っても、温暖化にストップがかからない状況を想定した、人類にとって最後の砦とも言える技術です。
「温暖化を止める」ためというよりも、「その影響から命や暮らしを守る」ためのテクノロジーです。
具体的には、気候の変化に耐えられる農業技術の開発や、激甚化する自然災害から住宅や街、社会インフラを守る技術開発。さらに、気候変化による感染症の拡大予防や熱中症対策など、公衆衛生分野での技術開発、そして、農業生産者向けの気象リスク(干ばつや豪雨)に対する農業保険など、リスクファイナンスの分野でも新たな挑戦が行われています。
拡大するクライメイトテック市場
こうしたクライメイトテックは、ビジネスの分野でも大きな注目を集めています。世界中で脱炭素社会へ向けた取り組みが進む中、クライメイトテックは、今後大きな成長が見込まれる「ビジネスチャンスの宝庫」でもあります。2024年の世界の市場規模は約253億ドル。2025年には314億ドル、2032年には1,492億ドルに達すると予測されています。
とくに、急成長を遂げているのがスタートアップ企業です。世界4大会計事務所のひとつである米PwCの調査によると、2021年時点で世界には3,000社以上のクライメイトテック関連のスタートアップが存在し、その数は現在も増加しています。これまで紹介してきたクライメイトテック関連企業も、ほとんどがスタートアップです。IT系の起業家による参入も多く、ビル・ゲイツ氏は、「今後、クライメイトテック市場からテスラ規模の企業が8~10社ほど誕生するだろう」と語っています。
地球温暖化の進行は、もはや「止められるかどうか」ではなく、「どこまで抑えられるか」「どれだけ備えられるか」という段階に入りつつあります。
クライメイトテックは、こうした気候変動時代を迎えた人類の未来を照らす光であり、その開発に世界中の起業家やエンジニアが挑戦していることは、私たちにとって大きな希望だと言えるでしょう。
出典・参考文献
○MIT Technology Review 世界を変える気候テック企業 2024年版 https://www.technologyreview.jp/s/349078/2024-climate-tech-companies/
○Fortune Business Insights ‒ “Climate Tech Market Size, Share & Industry Analysis”
https://www.fortunebusinessinsights.com/climate-tech-market-109849
○「Climate Tech スタートアップの動向」環境省中央環境審議会(2023 11 22) 東京大学FoundX ディレクター 馬田隆明
○「Climate Techに関する国内外の市場動向について2024年10月11日」環境省大臣官房環境経済課環境金融推進室