いよいよ再エネが主力電源に!
第7次エネルギー基本計画(原案)公表。2025.01.30
経済産業省は、2024年12月17日、これからのエネルギー政策の方向性を示す「第7次エネルギー基本計画」の原案を公表しました。注目されるのは、2040年度までに再生可能エネルギーを主力電源とする目標が打ち出されたことです。今後、DXやGXの推進、AI活用の拡大、電気自動車の普及などによって電力需要の増加が見込まれるなか、日本の電力はどうなっていくのか、基本計画案の概要をご紹介しましょう。
3年ごとに更新されるエネルギー基本計画
エネルギー基本計画とは、エネルギーの安定供給を最優先としつつ、CO2 排出量削減を中心とした環境対策と経済成長をバランスよく進めるための長期計画です。計画づくりが始まったのは 2003 年のこと。イラク戦争が勃発し、原油供給の不安が高まっていたことに加え、京都議定書の発効が間近に迫っていたことから、エネルギーの確保と環境対策の舵取りをする長期的なプランが必要になったのです。当初から、基本計画の大きなポイントは再生可能エネルギーの利用拡大と石油依存からの脱却であり、3年ごとに計画を見直し、より高い目標を掲げて、その実現に取り組んできました。
今回の第 7 次エネルギー基本計画では、近年のエネルギー情勢の変化として、「ロシアによるウクライナ侵略や中東情勢の緊迫化によりエネルギー危機への懸念が高まっていること」、「DXやGXの進展に伴って、今後ますます電力需要の増加が見込まれること」、「各国がカーボンニュートラルに向けた積極的な取り組みを進めるなか、日本もさらなる対策強化が求められていること」などを踏まえ、幅広い議論が行われました。
その結果、注目される電源構成においては、2040 年までに再生可能エネルギーの比率を第 6 次計画の36~38%から、40~50%に引き上げる目標が立てられました。これによって、現在の火力発電(石油、石炭、LNGなど)に代わって再生可能エネルギーが最大の電源になります。また、原子力に関しては、第6次計画と同等の20%を維持することになり、火力発電は30~40%に縮小することになりました。
2040年度までに太陽光発電を約3倍に
いよいよ電力供給の主役となる再生可能エネルギーですが、今後ますます増加する電力需要にどのように応えていくのでしょうか。中心になるのはやはり太陽光発電です。第 7 次エネルギー基本計画では、2040年度における再生可能エネルギーの内訳として、太陽光発電22~29%程度、風力発電4~8%程度、水力発電8~10%程度、地熱発電1~2%程度、バイオマス発電5~6%程度としています。前回の第6次エネルギー基本計画では、2030年度の目標として太陽光14~15%、風力5%、水力11%、地熱1%、バイオマス5%であったことを考えると、太陽光発電の伸び率が突出して大きいことがわかります。
ちなみに、2023年度の再エネ発電に占める太陽光の割合は9.8%(約74GW)であることから、第7次エネルギー基本計画の目標を達成するには、今後15年で太陽光発電を現在の約3倍に拡大することになります。これを実現するには毎年 8~ 12GWの新規導入が必要な計算となり、ここ数年の年間 5~6GWの導入スピードが大幅に加速することになるでしょう。
しかし、太陽光発電に適した用地が少ない日本で、どうやって発電量を増やすのでしょうか。そのカギを握っているのがペロブスカイト太陽電池です。薄くて軽く、折り曲げられるため、現在の太陽光パネルの重さに耐えられない屋根や壁面のほか、複雑な形状の場所にも取り付けることができ、発電量の拡大に貢献できます。政府は2025年を量産開始の目標としており、2040年度にはペロブスカイト太陽電池による発電量を原子力発電所20基分に相当する20GW規模(一般家庭約550万世帯分の電力供給力)にする計画です。
また、太陽光発電に次いで増設が期待される風力発電は、洋上風力発電が牽引役になりそうです。2025年度中に、九電みらいエナジー(福岡市中央区)やJ パワーなどのグループが風車25基を備えた国内最大の洋上風力発電所を稼働するなど、大規模発電所の稼働や着工が各所で予定されています。さらに、日本の海洋環境に適した浮体式洋上風力発電所の開発・導入を推進することで、海外に比べて遅れていた日本の洋上風力発電を拡大させる計画です。
増加するデータセンター電源に最適、再評価される原子力発電
一方、原子力発電については、安全性の確保を大前提として、電源構成の約20%を賄う計画となりました。日本では、2011年の東日本大震災に伴う原発事故以来、「原子力の依存度を可能な限り低減する」という方針でしたが、一定出力で安定的に発電できる原子力発電は、需要が急増しているデータセンターや半導体工場に最適な電源として世界中で注目を集めています。
さらに、2023年の第28回・国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)で、原子力が再生可能エネルギーとともに脱炭素技術のひとつとして合意文書に明記されたことも再評価のきっかけになりました。有志国によって原子力発電設備容量を2050年までに3倍(2020年比)にする宣言も発表されるなど、原子力発電に追い風が吹き始めています。
また、巨大グローバル企業は、脱炭素電源を供給できない国ではデータセンターや半導体工場建設などの設備投資を行わない方針を打ち出しており、原子力発電の削減が国際競争力の低下につながるおそれもあります。こうしたことから第 7 次エネルギー基本計画では、原子力発電は必要な規模を継続利用するとともに、次世代革新炉 (革新軽水炉・小型軽水炉・高速炉・高温ガス炉・核融合)の開発・設置も計画に盛り込まれました。
また、火力発電は温室効果ガスの排出源という課題がある一方、現状では電力供給の7割をカバーし、再生可能エネルギー発電の出力変動を補う調整力として重要な役割を果たしています。そのため安定供給に必要な発電容量を維持しつつ、非効率な石炭火力の削減を進める方針が立てられました。具体的には、LNG火力の確保、水素・アンモニア、CCUS(二酸化炭素の回収・有効利用・貯留)などを活用した火力の脱炭素化を進める計画です。
環境団体から批判の声も。3月の閣議決定に注目
ここまでご紹介してきた第7次エネルギー基本計画は、2024年12月に発表された原案であり、政府はパブリックコメント(意見公募)を経て、2025年3月までの閣議決定を目指しています。
原案については、主に環境団体から意見が寄せられており、環境保全団体の世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)は、「第6次計画で2030年度に再生可能エネルギー発電の割合を36~38%としながら、次の10年間に2~14ポイントしか増やさないという7次計画案の野心の乏しさに大いに失望する」と批判。再エネ比率の一層の引き上げや、化石燃料からの転換に明確な道筋をつけることを求めています。
また、環境 NGOの気候ネットワークも、「石炭火力の廃止には全く言及せず、CO2 を大量に排出するLNG火力の継続利用を進めるなど、国際社会で先進国が目指すべきとされる2035年の電力の脱炭素化からかけ離れたものだ」と声明を発表しています。
一方で、再生可能エネルギー発電はコストが高いため急激な拡大は、生活や産業への影響も懸念されます。さらに太陽光や風力発電は、発電量の自然変動をカバーするため火力発電などによる調整が不可欠ですが、今後、火力発電量の減少によって設備効率が下がると、火力発電のコストも上昇する可能性があります。エネルギーの安定供給とカーボンニュートラルの実現、さらに、私たちの暮らしや産業を守るために、第7次エネルギー基本計画がどのような形で決定されるのか。3月の閣議決定に注目しましょう。
出典・参考文献
○資源エネルギー庁「エネルギー基本計画(原案)の概要」令和6年12月
○日経BP メガソーラービジネス https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/news/00001/04679/?ST=msb