マンスリーコラム

蓄電や暮らしに関する
さまざまなトピックスを
毎月お届け。

EV 普及の追い風に。
加速するバッテリーリサイクル。2024.10.29

EV 普及の追い風に。加速するバッテリーリサイクル。

EV( 電気自動車) の普及に影を落としていた使用済みバッテリー問題。EV が本格的に普及し大量廃棄時代を迎えたとき、バッテリーをどのように処分するのか。EV 誕生時から懸念されていた問題が、いよいよ解決に向けて動き始めています。EV の心臓部でもあるバッテリーは廃車後、どこに行くのか。使用済みバッテリーのリユース・リサイクルの最前線をご紹介しましょう。

なぜ、使用済みバッテリーが問題なのか

EV のバッテリーとして使われているのは、その大半がリチウムイオン電池です。リチウム、コバルト、ニッケルなどのレアメタルが使われているので、そのまま廃棄してしまうと自然環境や人体にも悪影響を及ぼします。もちろん貴重なレアメタルを再利用せずに捨ててしまうのは、限りある資源の有効活用の面でも大問題です。とくにコバルトは、生産量の半分をコンゴ民主共和国が占めるなど採掘場所の偏りが大きく、埋蔵量もわずか710 万トン(2017 年の調査)。このまま採掘を続けると50~60 年で枯渇するとされ、価格も年々上昇しています。EV の車両価格の約40% をバッテリー関連が占める中で、レアメタルの高騰はEV 価格をさらに押し上げ、普及の足かせになるでしょう。
またEV 用バッテリーは、製造時に多くのエネルギーが必要で環境負荷が大きい割に、製品としての寿命が比較的短いという問題があります。ライフサイクル全体で考えた場合、有効に再利用しないとかえって環境への負荷が大きくなってしまう恐れもあります。

こうした使用済みバッテリーの問題は、世界的なEV の普及とともに、いよいよ現実となりつつあります。EV 用バッテリーの寿命は8 年または走行距離16 万km とされていることから、2030 年以降、廃棄されるバッテリーの量が急増することは間違いありません。米国のマッキンゼー& カンパニーは、2030 年には185 万トン、2040 年には2,050 万トンに達すると予測しています。大量廃棄時代を迎える前に、使用済みバッテリーのリユース・リサイクル方法の確立と普及が不可欠です。

世界全体のEV・PHEV(乗用車)の保有台数推移

始まっている、バッテリーのリユース

使用済みバッテリーの活用法には、大きく分けてリサイクル(再生利用)とリユース(再利用)の2 つがあります。リサイクルは、バッテリーを分解してリチウムやコバルトなどの材料を回収し、新たなバッテリー製造などに再利用することです。一方リユース(再利用)は、劣化または故障したセルを交換・修理し、EV 以外の用途に使えるように再製品化します。
このうち、現時点で積極的に行われているのはリユースです。使用済みバッテリーからレアメタルなどを取り出すリサイクルには高度な技術と多大なコストがかかるため、廃棄されるバッテリーが少ない現時点では、事業として成り立ちません。今後、廃棄されるEV が増えればコスト問題は解消される可能性がありますが、今のところリユースの方が現実的です。

みなさんのなかには、「EV 用として長年使われたバッテリーがまだ使用できるのか」と疑問を感じる人もいるかもしれません。スマートフォンのバッテリーの経年劣化に悩んだ経験がある人ならなおさらでしょう。しかし、その心配は無用です。
EV 用のバッテリーは、一般的なリチウムイオンバッテリーより格段に優れた性能を持っています。重量1t以上の車両を動かすパワーがあり、減速時は電気を瞬時に回生し、超スピード充電も可能です。EV 用バッテリーは、蓄電可能容量が70~80% まで低下すると快適な走行ができなくなるのでバッテリー交換か廃車ということになりますが、これは、前述のような高性能を求められるEV 用バッテリーとしての寿命です。一般的なバッテリーとしてまだまだ十分に使えます。そこで、産業機械用バッテリーや、オフィス・店舗・家庭でのバックアップ電源などにリユースする取り組みが広がり、多くの日本企業が積極的に参入しています。

世界に先駆けた日産自動車の挑戦

取り組みが早かったのは日産自動車です。日産が電気自動車「リーフ」を発売したのは2010 年12 月ですが、それに先立つ2010 年9 月に、住友商事とともにEV 用バッテリーの再利用を目的とするフォーアールエナジー社を創設しています。
フォーアール(4R) という社名の通り「リユース(再利用)」「リセール(再販売)」「リファブリケイト(再製品化)」「リサイクル」という4R を目指し、EV 発売前から使用済みバッテリーの処理方法を検討していたのです。2018 年3 月にはリーフの使用済みバッテリーを分解・整備し、劣化の少ないセルを選び出して再製品化する工場を福島県浪江町に開設。2019 年には、使用済みバッテリーを定置型の蓄電池として再生した商品を開発し、太陽光発電の蓄電池としてセブン-イレブンの店舗に導入しています。さらに2022 年には、JR 東日本とともに踏切の保安装置のバッテリーとして活用する取り組みを推進。停電時の踏切のバックアップ電源として、順次設置が進んでいます。

世界に先駆けた日産自動車の挑戦

日本発、リユースバッテリーの国際規格が登場

こうしたEV 用バッテリーの再活用は、環境対策や企業のSDGs 推進にも役立つことから、参入する企業が増え始めています。環境ベンチャーであるRebglo.( リブグロ) は、使用済みバッテリーを企業のBCP対策に活用する「リブグロBCP バッテリー」や、屋内外の幅広いシーンで活用できるポータブル蓄電池「ミルミルワーカー® シリーズ」として再製品化。さらに、環境負荷の少ないガス発電機と組み合わせることで、災害時でも長期間・安定的に電力を供給できる「リブグロ発電池システム」も開発・提供しています。
また、循環型社会に貢献するさまざまなプロダクトを開発するMIRAI-LABOでも、使用済みEV バッテリーと太陽光発電システムを組み合わせ、災害による停電時でも街を照らす自律型ソーラー街路灯などを開発しています。使用済みバッテリーを再利用することで同様のシステムを新しい蓄電池を使って製造するのに比べ、CO2 排出量を約60%も削減できるそうです。

一方で、使用済みバッテリーのリユースが拡大すると、気になるのが安全性です。もともと車載用として設計されている電池を別の用途に転用して安全に使えるのでしょうか。再製品化する際に、車載パックの形状を保つのか、モジュールやセルの単位まで分解するのかによって安全性も大きく変わるはずです。そこで、2018 年に製品の安全性などを認証する非営利団体であるUL(UnderwritersLaboratories)が、電池パックやモジュール、セルなどを再利用する際の管理手法を評価する「UL1974」規格を発行しました。前述のフォーアールエナジーは世界で初めてこの規格の認証を取得しています。
また2024 年には、経済産業省がEV 用バッテリーを再製品化する際の安全性と性能の評価基準を策定。IEC(国際電気標準会議)の審議を経て、日本発の国際規格として発行されました。これにより、リユースバッテリーの安全性が向上し、その普及が加速すると見込まれています。

EU の規制強化が後押し、本格化するリサイクル

さらに、最終的な目標であるEV 用バッテリーのリサイクルについても、バッテリーの廃棄量の増加に伴って取り組みが加速しつつあります。
住友金属鉱山は、使用済みのリチウムイオン電池からコバルト、ニッケル、リチウムを取り出し、リチウムイオン電池の材料として再利用する事業を2026 年から始める計画です。電池の年間処理能力は約1 万トンで、電気自動車(EV)約6 万台に相当。レアメタルの争奪戦が激しくなるなか、資源の国内循環体制の構築に貢献するそうです。さらに、丸紅などの商社も海外のバッテリーリサイクル企業と提携し、リサイクル事業に乗り出しています。

また、バッテリーリサイクルの追い風となっているのが、欧州連合(EU)による使用済みバッテリーへの規制強化です。2023 年の「電池規則(Regulation(EU)2023/1542)」において、レアメタルごとにリサイクル収率を規定した新たなルールが導入されました。これによると2027 年末までに、リチウムは50%、コバルトとニッケルは90%を再資源化することが求められます。さらに2031 年末までにリチウムは80%、コバルトとニッケルは95%へと引き上げる予定です。これによって使用済みバッテリーのリサイクルが世界規模で本格化することでしょう。

バッテリーのリユースやリサイクルが進むことは、CO2 排出量の削減のみならず、レアメタルの有効活用など幅広い資源循環を促し、地球環境全体にとって大きな貢献が期待できます。ニチコンでも、全国で提供している家庭用蓄電池の回収・処理サービスにおいて、環境負荷を軽減する取り組みを一層強化していきます。

※出典・参考文献
IEA(国際エネルギー機関)「Global EV Outlook 2024」
https://www.iea.org/data-and-statistics/data-tools/global-ev-data-explorer

一覧へ戻る