マンスリーコラム

蓄電や暮らしに関する
さまざまなトピックスを
毎月お届け。

「高校野球の夏」を守れ!
甲子園が取り組む環境対策。2024.08.30

「高校野球の夏」を守れ!	甲子園が取り組む環境対策。

今年も高校野球の熱戦に沸いた夏の甲子園。猛暑による選手への悪影響を抑えるためにさまざまな対策がなされ、今年は史上初めて午前と夕方の2 部制を導入し注目を集めました。こうした“夏の高校野球” を守るため、甲子園球場でも地球温暖化抑止に向けてさまざまな取り組みを行っています。開場100 周年を迎えた甲子園球場が挑戦する環境対策をご紹介しましょう。

KOSHIEN “eco” Challenge

阪神甲子園球場は、「阪急阪神ホールディングスグループ サステナビリティ宣言」に則り、環境保全プロジェクト「KOSHIEN “eco” Challenge」を2021 年12 月からスタートさせています。甲子園球場では、以前からさまざまな環境対策に取り組んできましたが、新たなプロジェクトとして「CO2 排出量削減」「廃棄物発生の抑制とリサイクル推進」「再生可能エネルギー等の活用」という3 つのテーマを設定し、これまで以上に「環境にやさしい球場」を目指しています。

まず「CO2 排出量削減」の取り組みとしては、照明・空調機器の省エネ化や壁面緑化などを推進。ナイトゲームに使用する照明をすべてLED 化することで、従来のHID ランプに比べてCO2 排出量を年間約60%削減しています。さらに球場内のすべての照明も順次LED に置き換える計画で、2025 年シーズンまでには完了する予定だそうです。

また、球場内の通路などに設置されている空調設備も省エネ効率の高い機器へ切り替え、CO2 排出量削減につなげています。そして、この空調効率を高めるために大きな役割を担っているのが、甲子園名物でもあるツタ( 蔦) による壁面緑化です。
甲子園球場では、1924 年の完成当初からツタが植えられ、美しい緑が見事に外壁を覆っていました。しかし2007 ~ 2010 年に行われた「平成の大改修」の際、耐震補強や改装工事のため、一旦すべてを伐採。その後に再植樹して、現在の姿にまで回復しています。こうしたツタによる壁面緑化は高い断熱効果が期待できることから、建物内に熱がこもるヒートアイランド現象を抑制できるほか、暑い夏には室内の温度上昇を軽減し、寒い冬には保温効果を発揮することで空調効率を高め、CO2 排出量の削減につながっています。

ちなみに、平成の大改修によってツタが伐採される前に、その苗が全国の高校に贈呈されていました。そして、工事終了後に一部が里帰りし再び外壁を覆うツタに使われているのです。高校野球と縁の深い甲子園球場ならではのエピソードですが、長い歴史が見事に継承されたと言えるでしょう。

KOSHIEN “eco” Challenge

銀傘の上で輝く1,600 枚の太陽光パネル

ツタと並んで、甲子園の外見的な特長となっているのが内野席を覆う大屋根「銀傘( ぎんさん)」です。実は、その屋根の上には1,600 枚の太陽光パネルがずらりと敷き詰められています。発電量は年間約19.3 万kwh。阪神タイガースが1 年間に甲子園球場のナイトゲームで使用する照明の電力量に相当します。銀傘の太陽光発電を使うことで、火力発電に比べてCO2 排出量を年間で約150t 削減することができ、それは約40 万m²(甲子園球場の約12 個分)の森林が1 年間に吸収するCO2 と同程度の量になるということです。

さらに、この銀傘を一塁側・三塁側のアルプススタンドまで拡張する計画が発表されました。2024 年11月に着工し、2028 年3 月には完成する予定だそうです。観戦者の熱中症対策が主な目的ですが、その上に太陽光パネルが追加設置される計画で、CO2 削減にさらに貢献できることでしょう。
実はこの銀傘は、甲子園球場が誕生した頃はアルプススタンドまで覆う巨大な屋根であり、大鉄傘と呼ばれていました。しかし、第二次世界大戦の最中、武器製造のための金属供出によってすべて取り外されてしまったのです。終戦後、屋根は銀傘として復活し徐々に拡張されてきましたが、今回の計画でいよいよ完全復活を果たすことになりました。平和の象徴を取り戻すとともに、高校野球の学校応援席の環境改善につなげることで、高校野球の聖地としての継承を図っていくそうです。

また、銀傘に降った雨水は地下タンクに貯水され、敷地内からくみ上げる井戸水と合わせて、グラウンドへの散水や場内トイレの洗浄水に使用されています。これにより、年間使用水量(約 66,600 ㎥)の約65%を賄うことができ、水道水利用に比べてCO2 排出量の削減ができているそうです。

銀傘の上で輝く1,600 枚の太陽光パネル

甲子園三大グルメもプラスチック容器を廃止

さらに甲子園球場では、売店でのプラスチック製品の使用中止や、回収・リサイクルにも力を入れています。例えば、甲子園三大グルメと言われる「甲子園焼き鳥」「甲子園やきそば」「甲子園カレー」は、すべて包装材を紙製やバイオマス素材への切り替え、飲食店などで使用するレジ袋もバイオマス素材配合の袋に変更されています。
また、野球観戦で人気のビールについても、ポリエステル製ビール用プラスチックカップを分別回収する取り組みを進め、球場イベントで配布されるノベルティなどにリサイクルしています。お客様に回収の協力を呼びかけることで2022 年シーズンには回収率約35%(約10t)を達成しました。
さらに、プラスチックカップから再生した素材をグラウンドのラバーフェンスの中材クッションに使用したり、球場で使用するゴミ袋の原料に活用することでリサイクル用途を拡大しています。どちらも日本で初の試みとなり、とくにゴミ袋は、再生原料65%とリサイクル率が高く、通常のポリ袋に比べ約15%のCO2 排出量を削減することができる優れものです。

甲子園三大グルメもプラスチック容器を廃止

「夏の甲子園」を守るために私たちができること

このようにさまざまな環境対策が進んでいますが、夏の平均気温は年々上昇を続け、今年も記録的な猛暑になったのはご存知の通りです。こうしたなか、スポーツ観戦中の熱中症対策が重要になり、今年は日本気象協会が甲子園球場で高校野球に関わる選手、審判、応援団、観客、関係者などに熱中症対策を呼びかける予防啓発活動を行いました。
球場内で配布した紙扇子型のリーフレットでは、スポーツをするとき・スポーツを観るときの服装や、水分・塩分の補給状況などを確認する「熱中症予防チェック」や、熱中症の症状についての解説や応急処置の方法を紹介。リーフレットを折って紙扇子にすることで、暑さをしのぐ人々の姿も多く見うけられました。また、「日差しをよけよう」「水分と塩分をこまめにとろう」などの熱中症予防のポイントを紹介する動画を球場内のスクリーンで放映し注意喚起に一役買いました。

夏の高校野球については、開催場所や時期の変更などについて、たびたび議論が巻き起こります。しかし“甲子園” は単なるスタジアムの名前ではなく、「クイズ甲子園」や「ダンス甲子園」など、高校生が日本一を目指して競い合う場の代名詞になり、多くの人々が憧れを抱いています。選手が全力を出し切れる環境を用意することを第一にしつつ、憧れの聖地と伝統を守るために、私たちも地球温暖化抑止への取り組みを一層強くしていきたいものです。

一覧へ戻る