史上最もサスティナブルな大会へ。
パリオリンピック、いよいよ開幕!2024.06.28
セーヌ川を選手団がボートで入場行進する水上開会式など、華やかな演出で話題を集める2024 年パリオリンピック・パラリンピック。その一方で、パリ五輪の大きなミッションのひとつが気候変動対策であることは、あまり知られていないかもしれません。施設の準備段階から大会運営、提供される食事まで、環境先進国フランスが取り組む史上最もサスティナブルなオリンピックの全容をご紹介しましょう。
二酸化炭素排出量を従来大会の半分に削減
パリオリンピックの環境対策で最も注目されているのは、大会の準備・運営によって排出される二酸化炭素の排出を従来大会の半分に減らすという大胆な目標です。具体的には、2012 年ロンドンオリンピックにおける排出量の半分となる150 万t 以下に抑えることを目指します。ちなみに2021 年の東京オリンピックでも二酸化炭素の排出量抑制へ向けたさまざまな取り組みが計画されましたが、事前に試算された二酸化炭素排出量は約273 万t であり、パリオリンピックは、そのはるか上を目指すことになります。
なぜパリオリンピックは、これほど高い目標に挑戦するのでしょうか。その理由は、パリが国際的な気候変動対策に大きな役割を果たした「パリ協定」(COP21)が締結された都市であること。そして、国際オリンピック委員会(IOC) が、「2030 年以降のすべてのオリンピック競技大会を気候変動に配慮したイベントにし、2024 年からIOC を気候変動問題に積極的に取り組む組織にする」という公約を打ち出したことが大きく影響しています。IOC のトーマス・バッハ会長は、「パリ五輪はオリンピック競技大会の新しいモデルを実現する最初の大会となることでしょう」と期待を寄せています。
また、パリのアンヌ・イダルゴ市長もオリンピックの誘致活動を進めるなかで、「環境に優しい大会にするか、パリでは開催しないか」の2 択を宣言し、史上最もサスティナブルな大会にする強い意気込みをみせていました。
観客の移動は公共交通機関と自転車に限定
では、史上最もサスティナブルに大会にするためにどのような取り組みを行っているのか、具体的に紹介していきましょう。まずハード面については、競技施設の95% を既存施設か仮設の施設を活用し、建設に伴う二酸化炭素の発生を抑制します。唯一の新規施設となるのは水泳競技が行われるアクアティクスセンターですが、多くの木材を活用することで建設に伴う二酸化炭素排出量を削減しつつ、木材に蓄えられた炭素の固定化を果たします。さらに、本施設にはプール以外にもジム、クライミングウォール、スケートパーク、個人・チームスポーツ用のエリアを設け、大会後も市民が活用できるようにすることで負の遺産にしない配慮がなされています。
また、観客の移動手段は公共交通機関・自転車・徒歩に限られます。その代わりオリンピック会場周辺に専用駐輪場を多数設置し、各競技施設を結ぶ55km のサイクリングロードを新設するとともに、大会チケット保有者は公共交通機関を無料で利用できます。選手や関係者・ボランティアの移動には電気自動車(EV)が利用され、トヨタ自動車は2,650 台以上の電気自動車の提供を表明。さらに同社では、水素を燃料とした電気で走るFCEV(MIRAI)を500 台提供し、大会終了後はタクシーとして利用されることで、パリの環境対策に貢献するそうです。
一方、気になるエネルギーですが、大会では太陽光発電と風力発電で得られた100% 再生可能エネルギーを使用し、約1.3 万t の二酸化炭素排出量を削減する見込みです。仮設会場であってもディーゼル発電機は使用せず、セーヌ川に浮体式の太陽光発電システムを設置して電力を供給します。万が一、電力供給が途絶えてしまった場合のバックアップ用発電機についても、バイオ燃料を活用した設備を用意するなど、万全の対策をとっています。
史上初、使い捨てプラスチックのない大会に
さらに、パリオリンピックならではの取り組みとして話題を集めているのが、ペットボトルやプラスチック製品の削減です。競技会場へのペットボトルの持ち込みは原則禁止となり、マラソン競技の給水所でも再利用可能なカップを使用する計画だといいます。オリンピック公式スポンサーのコカ・コーラ社は、すべての会場に水や清涼飲料水を供給する設備を700 箇所設置するそうです。
また、イダルゴ市長は、パリオリンピックでの使い捨てプラスチックの禁止も発表。食事用のフォークやストローなども含めて、すべての使い捨てプラスチックが会場から消えることになりそうです。
実はフランスは、世界でもいち早く廃棄物対策法を制定し、その一環として2020 年1 月からプラスチック製使い捨て容器・カトラリーを禁止する法律を施行しています。2023 年1 月からは、飲食店での使い捨て容器による食事や飲料の提供も禁止されているのです。
プラスチックは、製造時の二酸化炭素排出に加え、廃棄物として捨てられた後の生態系への影響も問題視されており、パリのイダルゴ市長は「プラスチック廃棄物は世界的な問題であり、毎年、プラスチック廃棄物を摂取することで1万4,000 頭の哺乳類と140 万羽の海鳥が命を落としている」と訴え、その削減に意欲を燃やしています。
さらに、二酸化炭素排出量削減の取り組みは大会で提供される食事にもおよびます。パリオリンピック・パラリンピックの30 日間で提供される食事はなんと約1,300 万食。これだけの量になると、調理作業や食材の生産・流通・廃棄過程で多くの二酸化炭素が発生します。このためパリオリンピックでは、食事提供に起因する二酸化炭素排出量を平均的なフランス料理の提供に必要な量の半分に抑えた食事を提供するそうです。例えば、生産過程で多くの二酸化炭素を排出する牛肉を避けて菜食やヴィーガン食を推奨するほか、食材はフランス国内からの地産地消を進めて輸送時の二酸化炭素排出量を削減。旬の食材を積極的に使うことで、保存や加工のエネルギーも軽減します。
スポーツ大会を通して社会問題を解決する時代へ
もちろん、これだけ対策をしても二酸化炭素の排出量をゼロにすることできません。とくにパリオリンピックは、二酸化炭素排出の対象範囲を、最も広いカテゴリーであるスコープ3に設定しています。スコープ3とは、一般の事業者の場合では、製品の原材料調達から製造、販売、消費、廃棄に至るまでのすべて過程において排出される温室効果ガスの量に相当するものです。パリオリンピックの場合は、競技大会の開催によるエネルギー消費に加え、観客の移動や備品の配送、大会後の施設運営などに伴う排出量も含まれます。そのため、どうしても回避できない二酸化炭素の排出に関しては、カーボンオフセットを用いて相殺する計画です。取り組みはすでに2021 年から始まっていて、地球温暖化抑止に貢献するさまざまなプロジェクトを支援することで、大会による排出量を超えた二酸化炭素を相殺できるスポーツ競技大会になると言われています。
これまで、オリンピックは経済効果に注目が集まりがちでしたが、サスティナブルなパリオリンピックが成功することによって、スポーツ大会が環境問題をはじめとするさまざまな社会問題を解決する新しいモデルになる可能性があります。
ニチコンも、地球環境保全へ向けた環境エネルギービジネスであるNECST 事業(Nichicon EnergyControl System Technology 事業) に10 年前から取り組み、今年2 月には国際環境非営利団体CDP※より、「気候変動レポート2023」において最上位のリーダーシップレベルである「A-(A マイナス)」の評価を受けました。今後も、電気を効率よくマネジメントする技術を活かし、幅広い分野で環境・エネルギー問題の解決に貢献していきます。
※CDP は企業の環境報告のグローバルスタンダードとして広く認知されており、CDP が毎年公表する評価(スコア)は、ネットゼロ、持続可能でレジリエントな経済を構築するために投資や調達の意思決定に広く活用されています。
※出典・参考文献
・INDEPENDENT ASIS Edition
https://www.independent.co.uk/climate-change/news/tokyo-olympics-2021-climate-change-b1885491.html
・IOC
https://olympics.com/ja/news/paris-2024-commits-to-staging-climate-positive-olympic-and-paralympic-games
https://olympics.com/ioc/news/paris-2024-puts-sustainability-on-the-plate
・SDGs in SPORTS
https://sports-sdgs.org/blog/paris2024