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EV 普及の起爆剤となる!?
「全固体電池」の驚きの性能。2024.03.29

EV 普及の起爆剤となる!?「全固体電池」の驚きの性能。

夢の電池として長く研究が続けられてきた「全固体電池」。数々の技術的ブレイクスルーを経て、いよいよ実用化が視野に入り始めてきました。開発競争に火をつけたのは、次世代の電気自動車(EV) の覇権を争う自動車メーカーや電機メーカー。この革新的な技術が私たちの生活や社会にどのような変化をもたらすのか、一緒に探ってみましょう。

全固体電池とは何か?

未来を変える電池として注目されつつある全固体電池ですが、まだ、詳しく知る人は少ないのではないでしょうか。全固体電池とはその名が示す通り、すべてが固体で構成されている電池です。現在広く利用されている乾電池や充電ができてスマートフォンやEV に使われているリチウムイオン電池も見た目は固体ですが、その中には液体の電解質が入っています。
簡単に電池のしくみをおさらいしておきましょう。左下の図がリチウムイオン電池の構造を表したものです。正極と負極をつなぐと、負極に蓄えられていたリチウムイオンが電解質の中を正極側へ移動し電流が流れます。充電するときはリチウムイオンが反対方向に動き、正極と負極の間に電位差が生じて電池が充電されます。電解質はリチウムイオンの通り道として重要な役割を果たしていますが、リチウムイオン電池は、電解質に引火性のある液体の有機溶媒を使用しているため、液漏れや外部からの衝撃による発火・破裂などのおそれがあります。

全固体電池も充電・放電のしくみはほぼ同じですが、決定的に違うのは電解質が液体ではなく固体だということです。固体の電解質は正極と負極の短絡を防ぐセパレータの役割を果たすので、セパレータも不要になります。実は昔から電解質が固体であっても電池として使えることは知られていましたが、高い性能の電池を作るには液体の電解質が不可欠だと考えられていました。ところが、固体なのにリチウムイオンが素早く移動できる電解質が発見されたことで、研究が活発化したのです

全固体電池とは何か?

安全性が向上し、超急速充電も可能に

電解質が固体になるとどんなメリットがあるのでしょうか。主な特長は、①安全性が高い ②幅広い温度帯で安定して性能を発揮する ③超急速充電が可能になる ④劣化しにくく長く使える、などです。安全性については、前述の通り、電解質として液体の有機溶媒ではなく酸化物系や硫化物系の固体を使うので液漏れの心配がなく、発火の可能性も低く抑えることができます。
高温や低温に強いことは、電気製品の使い勝手を飛躍的に高めてくれます。例えばみなさんのスマートフォンやノートパソコン。寒い冬に充電に時間がかかったり、電池の持ちが悪くなることがあると思います。これは、リチウムイオン電池の液体電解質が寒さに弱く性能が落ちてしまうためですが、全固体電池の固体電解質は安定性が高いので低温状態でも問題なく使えます。
また、高温に強いので充電時間を大幅に短縮できるようなります。一般的に電池は充電すると内部で熱が発生しますが、リチウムイオン電池は高温に弱いため充電のスピードを上げられません。一方、全固体電池は熱に強いので超急速充電が可能になります。
さらに、固体の電解質は劣化が少ないので長寿命化が可能であり、液漏れを防ぐために丈夫な容器を作る必要がないので形状の自由度が高まります。小型化や薄型化、あるいは重ねて使用するなど、用途に合わせた電池が作れるようになるのです。全固体電池には形状や電解質の種類によってさまざまなタイプがあり、それぞれ下記のような特長があります。

全固体電池の種類

EV 市場のゲームチェンジャーになる

こうした全固体電池の恩恵を最も大きく受けると期待されているのが電気自動車(EV) です。地球温暖化抑止へ向けて、世界中で自動車のEV 化がブームになりましたが、現在、その熱はやや沈静化しつつあります。原因は、航続距離の短さ、充電時間の長さ、そして厳寒時には実質的な電池容量が減り、航続距離が大幅に減ることが明らかになってきたためです。ところが、こうした課題のほとんどが全固体電池によって解決できることから、実用化へ向けた国際的な開発競争が激化しています。

EV 販売シェア世界1 位※のBYD( 比亜迪汽車) を中心とした中国では、全固体電池の開発はまだ時間がかかると見て、まずは半個体電池の実用化を進めています。半固体電池とは、負極側には固体電解質を使い、正極側は従来の液体電解質を使うハイブリッド型の電池です。開発は順調で、NIO( 上海蔚来汽車) は、半固体電池を搭載したEV が途中充電なしで1,000km を走行する実験に成功するなど、中国メーカーの競争力がさらに高まると思われました。

ところが、これに待ったをかけたのが日本の自動車メーカーです。トヨタ自動車は2023 年6 月に「全固体電池の耐久性を克服する技術的ブレイクスルーを発見した」とし、2027 ~ 2028 年には全固体電池を実用化すると宣言しました。驚くのはその性能で、航続距離が1,000km 以上に延びることに加え、約10 分で充電可能になり、100℃を超える高温でも問題なく動作し、マイナス30℃でも容量や出力が大きく低下しないといわれています。
このニュースは、全固体電池の実用化に懐疑的だった中国にショックを与え、「破壊的技術である全固体電池によってもたらされるリスクを警戒しなければならない」と、EV 開発方針の変更を余儀なくされているようです。

また、トヨタ自動車以外の日本メーカーも全固体電池の開発を着々と進めていて、日産自動車は全固体電池を2028 年度に市場投入するとし、エネルギー密度が2 倍、充電時間が3 分の1、価格についても、ガソリン車とEV のコストが同等レベルになるまで低減していくと発表しました。ホンダも全固体電池を2020 年代後半のモデルに採用すると発表しています。

※2023年10~12月期の電気自動車(EV)の世界販売台数での比較。日本経済新聞2024 年1 月3 日より。

電池が変われば、暮らしも変わる

もちろん、全固体電池はEV 以外の分野でも大きな導入効果が期待されています。薄型化や小型化が可能なため、電子基板への組み込みが容易で、幅広い電子機器に応用が可能です。パソコンやスマートフォンでは、大容量かつ高出力の全固体電池の採用により持続時間と性能が向上し、充電を気にする必要がなくなるかもしれません。過酷な環境での耐性を持つことから宇宙空間での利用も検討されています。

また、全固体電池は家庭用蓄電池としても大きな効果が期待できます。充電・放電を繰り返しても劣化がほとんど見られないため、長く安定して使えることができるほか、暑さ・寒さに強く、安全性も高まります。ニチコンでもより良い製品開発のために、全固体電池などの新技術の開発状況を注視しています。

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