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脱炭素社会の新たな主役。
次世代型太陽電池、いよいよ実用化へ。2023.08.29

脱炭素社会の新たな主役。次世代型太陽電池、いよいよ実用化へ。

脱炭素への使命を担いながら、この数年、伸び悩みが続いている太陽光発電。そんな状況を一気に変える可能性を秘めた次世代型太陽電池が実用段階を迎えつつあります。その名も「ペロブスカイト太陽電池」。従来型のさまざまな課題を解決し、再生可能エネルギー拡大の切り札として期待される新たな太陽電池について、その驚くべき性能をご紹介しましょう。

伸び悩む、太陽光発電の救世主になる?

日本の全発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合は、2022年時点で22.7%。年々増加はしているものの世界の主要国と比べるとまだまだ低く、さらなる導入拡大が求められています。しかしこの数年間、日本の再生可能エネルギー発電量の伸び率は鈍化しており、とくに牽引役だった太陽光発電に勢いがありません。
再生可能エネルギー全体に占める太陽光発電の割合も、2021年が9.3%、2022年は9.9%と微増に留まっています。また、住宅用太陽光発電の新規導入件数は、2012年〜2013年のピーク時に記録した年平均27.2万件から半減。事業用太陽光発電の新規導入量も、同様の傾向が続いています。

なぜ、太陽光発電の新規導入数が増えないのでしょうか。その理由は、太陽光パネルの原料であるシリコン価格が高止まりしていること。そして、設置できる場所が少なくなってきていることにあります。とくに導入場所の不足は深刻です。日本は既に、国土面積あたりの導入量が主要国で第1位となっており、国土の約70%が森林であることを考えると、拡大の余地があまり残されていません。
このため、既存の太陽光発電では設置できなかった場所に導入でき、シリコン型に匹敵する発電性能をもつ新しい太陽電池の開発が求められていました。

日本の全発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合の推移

世界に衝撃を与えた、次世代太陽電池の驚きのスペック

こうした問題を見事に解決し、新たな再生可能エネルギーの主役として登場したのが「ペロブスカイト太陽電池」です。
「ペロブスカイト太陽電池」は、現在の主流であるシリコン結晶を使う太陽電池と異なり、ペロブスカイトと呼ばれる特殊な結晶構造を持つ物質を使います。ペロブスカイト構造をもつ物質にはさまざまな種類がありますが、太陽電池には、主に、ヨウ素と鉛の化合物から作ったペロブスカイトが使用されます。
発明したのは、ノーベル賞候補者とも言われる桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授。2009年、宮坂教授らよる「ペロブスカイト太陽電池」の開発成功は、世界に大きな衝撃を与えました。厚さわずか1mmのシート状で、重さがシリコン型の約1/10。柔軟性があり自由に曲げられることに加え、製造コストがシリコン型の約半分。さらに、室内光や雨天時など弱い光での発電もできるという驚きのスペックを秘めていたのです。

ペロブスカイト太陽電池の主な特長

「ペロブスカイト太陽電池」は、設置場所の制約が極めて少ないことから、シリコン型では困難だった建物の壁や耐荷重の小さい屋根、さらには電気自動車(EV)の屋根や車体などの曲面にも容易に設置できます。
まさに再生可能エネルギーのゲームチェンジャーでありで、世界各国で実用化に向けた研究が激化したのは言うまでもありません。当初は、低かった光電変換効率(照射された太陽光エネルギーのうち電力に変換できる割合)も20%を超えてシリコン型に迫る性能に進化し、いよいよ実用化の目処が見えてきました。

日本政府も2030年までに「ペロブスカイト太陽電池」を普及させる方針を打ち出すとともに、主要7カ国(G7)が2023年4月に開催した「気候・エネルギー・環境相会合」で、「ペロブスカイト太陽電池などの革新的技術の開発を推進する」との共同声明を発表。「ペロブスカイト太陽電池」の市場規模は、2035年には1兆円規模に拡大すると予測されています。

エネルギー安全保障でも重要な役割を担う

エネルギー安全保障でも重要な役割を担う

また、「ペロブスカイト太陽電池」は、ウクライナ危機によって高まったエネルギーの安全保障においても大きな役割が期待されています。各国が開発にしのぎを削るのも、再生可能エネルギーの主軸である太陽光パネルを自国で調達できるようにする狙いがあるのです。
現在のシリコン型パネルは、世界市場の8割以上を中国企業が占めています。かつては日本メーカーが優勢でしたが、国などからの補助を受けた中国メーカーが低価格で量産したことで、日本や欧米企業は相次いで撤退。次世代型を国産化することは、脱中国依存へ向けた悲願でもあるのです。

残念ながら、今のところ「ペロブスカイト太陽電池」の量産化競争は、中国、イギリス、ポーランドが先行しています。しかし、生産規模はまだ小さく、5年程度と言われる耐久性の問題が解決できていないなど、課題も残されています。
こうしたなか、日本企業も量産・実用化へ向けた研究・開発に取り組み、先行する積水化学工業は、得意の耐久性技術を生かして、屋外用途に適した「ペロブスカイト太陽電池」を2030年までに量産化する計画です。
また、日本は、「ペロブスカイト太陽電池」の原料であるヨウ素資源が豊富で世界シェア2位であることから、つねに安定調達できるメリットもあります。

折しも、2025年度から東京都と川崎市において、新築住宅への太陽光パネルの設置義務化がスタートします。安価で設置場所を選ばない「ペロブスカイト太陽電池」は、都市部の住宅設置に最適であることから、日本の脱炭素化を大きく前進させる可能性があります。
ニチコンも、太陽光発電の電気を蓄え、家庭でじょうずに使える蓄電システムを通して、地球温暖化抑止へ向けたエネルギーのさらなる自給自足に貢献していきます。

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