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漫画で見た未来が実現?
ハイパーループ構想とは2023.06.29

漫画で見た未来が実現?ハイパーループ構想とは

こどもの頃に読んだマンガや、SF映画に描かれてきた「未来」の都市。そこでは、車は道路ではなく空を自由に飛び、電車は透明なチューブの中を走っていなかったでしょうか? 『鉄腕アトム』で描かれていた「未来」は2003年。手塚治先生の予想する未来には間に合いませんでしたが、着実に近づいていることは間違いないようです。

脱炭素時代の新たな交通・輸送手段「ハイパーループ」

このコラムはこれまでにも地球温暖化への世界的な取り組みを、主にエネルギーの視点からご紹介してきました。温暖化の原因となっているCO2など温室効果ガスの排出量をどれだけ減らすことができるのか。EV車の世界的普及は勿論のこと、より大型なトラック、あるいは飛行機といった輸送手段は鉄道へとシフトしようという動きが出ています。そして、中でも特に新たなテクノロジーの活用として注目を集めているのが「ハイパーループ」構想です。

「ハイパーループ」とはアメリカの有名実業家イーロン・マスク氏が提唱した「チューブの中を真空(亜空間)に近づけ、その中にポッドやカプセルを走らせる」という構想です。発表当初には真空チューブ列車とも呼ばれました。このハイパーループのメリットとしては、「天候に左右されない」「単一方向に走行させるため衝突などの事故の可能性が軽減する」「真空(亜空間)を走行するので飛行機の約2倍の速度、時速1000kmを超える移動が可能」など様々なメリットが挙げられています。中でも、真空の中を移動することにより、消費エネルギーも極めて低く抑えることができます。太陽光や風力、運動エネルギーなどの再生可能エネルギーを利用し、またCO2を排出しないため地球環境に優しいという点でも大きな注目を集めています。

実用化はもう目前?ハイパーループ構想の“今”

実用化はもう目前?ハイパーループ構想の“今”

イーロン・マスク氏はこのハイパーループ実現のため、この構想をオープンソースにし、賛同した人々や企業が技術を発表するコンテストを開催。これにより、さらに賛同者や、より具体的なアイデアや技術開発が続くことで、2023年現在では、世界の幾つかの地域では実際の走行にまで至る現実的なプロジェクトとして進行しています。

スペインの企業が開発しているハイパーループは、完全電動による磁気浮上で最高時速は1000km、1両で50~200人の乗客を運ぶことを想定。動力源には再生可能エネルギーを利用し、電気モーターや車両推進システムがインフラではなく車両そのものに統合されるためコスト効率も高いうえ、システム構築/保守ともに容易と言われています。この会社ではスペイン~ドイツ間をはじめとする様々なルートでのハイパーループ路線の建築を計画。世界五大陸の主要都市を全長88,500kmのハイパーループにより接続することで、2800万トンの貨物輸送を実現できると予測しています。これまでの交通手段からハイパーループに転換することで、年間62臆8800万トンのCO2排出量を削減できると期待されています。

2020年11月、アメリカのハイパーループ企業Virgin Hyperloopは、ネバダ州の砂漠における試験施設で、ハイパーループの有人試験に初めて成功したと発表しました。この時の最高速度は時速約172kmで、約15秒をかけて500mのテスト区間を走行しました。2人用の小型ポッドでの実験でしたが、同社は商用化に向け、28人乗りのポッドの開発を進めています。

他にも、オランダやインド、韓国といった国々もハイパーループ企業とパートナーシップ契約を結び、2030~2050年までには本格的実用化に向けて、国家事業としての計画を着々と進めています。

新しい移動手段は日本にも到来するの?

新しい移動手段は日本にも到来するの? 出典:経済産業省ウェブサイトより「都市での人の移動」

では、私たちが暮らす日本にもハイパーループが導入される未来は来るのでしょうか?
2020年5月、日本政府はAIなどの先端技術を街づくりに生かす「スーパーシティ構想」実現に向け、規制緩和などを盛り込んだ「改正国家戦略特区法」を国会で可決・成立させました。スーパーシティ構想の目的は、都市圏全体の発展を促進し、経済的、社会的な恩恵をもたらすことです。交通インフラやエネルギー供給、生活環境などを総合的に考慮し、都市圏内の多様な産業を育成することを大きな目的としています。持続可能な社会の実現に向けた重要な取り組みであると同時に、地域の魅力向上や国際競争力の強化など、多面的な効果をもたらすことが期待されています。

この構想の一端を具体的に体験できる!と期待されているのが来年、2025年に大阪で開催される日本国際博覧会(略称:大阪・関西万博)です。この万博では「空飛ぶクルマ」が登場し、大阪ベイエリアでエアタクシーサービスが実施される予定になっています。空飛ぶクルマが実用化されれば、再生可能エネルギーを用いた電動でのバッテリー駆動により、CO2排出量の極めて少ない移動が可能となり、空間を有効活用することで渋滞も解消されると大きな期待が寄せられています。もちろん、この技術は都市部での人の移動に限らず、離島や遠隔地への物資輸送や、災害時の緊急輸送など、様々な分野へと活用されるはずです。

残念ながら日本でハイパーループが実現するのは、まだもう少し先になりそうですが、決して漫画で見た夢物語ではなく、その未来は着実に近づいてきていると言えそうです。実現した暁には、東京~大阪間をわずか35分ほどで移動できるようになるのだとか。そんな未来の「便利さ」や「快適さ」は、何よりも地球に優しい、持続可能な社会作りがあってこそ。そして、その鍵を握っているのは、これからのエネルギーの在り方に間違いありません。
私たちニチコンは、蓄電システムのさらなる技術開発、革新をもって、これまでも/これからも、より新しい都市づくりに貢献していきます。

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